夏になりかけている季節になってしまった。外を歩いていると風が無いせいでじわじわと蒸し焼きにされている気分になる。
待ち合わせ場所の喫茶店は大通りから離れた隠れ家的なお洒落な店で、URLを開いた時はげんなりした。会うのは何処でも構わなかった俺にとっては、そういうところが鼻につく。
頭を朦朧とさせる暑さに、普段汗を掻かない俺でも服の下が汗ばんできて気持ち悪い。家を出る前にしっかりシートで身体を拭いたり対策をしたのにも関わらず、全く意味をなしていない。
会ったら説教してやると思いながら暑さに思わず俯くと、耳のピアスがカシャンと音を立てた。音楽みたいに歩くリズムに合わせて耳元で鳴るこの音が好きだ。イヤホンを壊してしまい、道中音楽を聴かなかったことで、そのことを思い出した。ピアスだって普段会社に勤めていると着けられないから、休みの時だけになってしまっている。それに加えて休みの日は用事がなければ引き篭もってしまう俺にとってはオシャレをしたのも久しぶりだった。あいつと会うから、という理由ではなく、外に出るからと意気込んだけれど、暑くてセットした髪も汗で殆ど取れてしまったし、それもこれもあいつのせいだ。
汗だくになりながら漸く見えて来た待ち合わせの店のドアを開けると、冷気が流れてきた。気持ち良さと目的地にたどり着いたという達成感から一瞬怒りを忘れてしまっていたけれど、べたべたしている肌は健在で、店内をぐるりと見まわすと店員が近付いてきた。
「いらっしゃいませ、おひとり様ですか?」
「いえ、待ち合わせで……」
予約なんてしていないだろうから当てにはしていない。また店内を見回していると、声で気が付いたのか階段の上のソファー席に座っている待ち合わせ相手が二階から手を振ってきた。俺を見下ろしているそいつを見つけ、眉を寄せながらサングラスを取ると小さな声で、おお、こわ、と呟いて憎たらしくも笑っている。
店員は俺が連れだと分かったようで、会釈をすると俺は階段に向かった。
「聞こえてっから。殴るぞ」
「治安悪いな」
二階への階段を上りながらそう言うと、少しも怯んでいない彼を睨んだ。短い階段を上りきって今度は俺が彼を見下ろすと、ソファーに深々と座っている北斗が眼鏡越しに俺を見た。相変わらず独特な服装のセンスを持っていて、それがやけに似合っているし胡散臭い。テーブルにはアイスコーヒーらしき飲み物が結露をつけていて、氷が見えるくらいには減っていた。待ち合わせ時間を過ぎていたつもりはない。かなり早めに着いていたのかもしれない。テーブルの端には小説が置いてあった。
「お前さ、駅から遠いのは暑くて死ぬんだよ。殺す気かよ」
「休みの日引きこもってる樹には丁度いいだろ」
「仕事で外には出てるから俺は良いんだよ」
休みの日くらい引きこもっても俺が好きでそうしているのだから文句を言われる筋合いはない。大学を出て社会人になって何年目かの良い大人だ。口を出されるのは鬱陶しい。
目の前にあるソファーに腰を下ろすと、タイミングを見計らっていたのか店員が水をテーブルに置いた。俺はそのまま北斗と同じアイスコーヒーを注文すると店員はそそくさと行ってしまった。それを目で追っていると、額から汗が落ちて来た。指で拭いながら目の前の北斗に視線を移すと目が合った。
「店員さん怖がってるって。愛想良くしようよ樹さん」
「お前のせいだろうが。まじで殴りたい」
愛想悪くしたつもりもないが、眉間に皺が寄っていたせいで怖がらせてしまったかもしれない。グラスに入っている水に口を付けて喉に水を流しこんで漸く、一息つくとコースターの上にグラスを置いて彼を睨みつけた。凄んでいるつもりではあるが彼に怯んだ様子はなく、楽しそうに笑っている。
一か月ぶりにあった彼は相変わらずで、アイスコーヒーに口を付けながらも俺から視線は外さない。その視線に耐えられなくなり目を逸らすけれど、逃れられるわけはなく、溜息を吐くと心底嫌そうな顔を作って口を開いた。
「んだよ」
「いや、汗掻いてる樹色っぽいなって」
「……は、変態」
呆れてすぐに言葉が出て来なかった。175とそこそこ身長が高く、普段黙っていると怖いと言われる俺に対して言う言葉ではない。こいつの感性はいつまで経ってもおかしい。机の上に置かれたメニューを引き寄せ無視を決め込むも、それでも俺を眺めている。
こいつは、俺の事を愛しているらしい。
その視線が居心地悪く感じていると、北斗はメニューを俺の手から抜き取った。彼も食べるのかと盗んでいったその手の主を見ると、メニューを見るでもなく意味ありげにじっと俺を見ている。どういうつもりなのか分からず憮然としていると、北斗が首を傾げながらメニューをぱらぱら見た後で置いてあったところに戻した。
「まだ見てたんだけど」
「何か食べるの?」
「食べちゃダメなのかよ」
「ホテル取ってるから、ホテルで食べれば?」
北斗は眼鏡の奥の目を細めて怪しく笑むと、丁度アイスコーヒーを持ってきた店員が少しだけ固まり、テーブルにそれを置くと会釈をして慌てて去っていった。その一連を見て大袈裟に溜息を吐くと、北斗は口角を上げて、してやったというように舌を出して笑う。
「お前の頭の中、俺抱くことしかねーの?」
「ないよ。樹が俺を生かしたんじゃん」
確かに、俺が北斗を生かしていると言っても過言ではなかった。
学生時代の北斗は、死にたがりだった。
いつもふらふらしているイメージで、それこそ世話したがりの女子が近寄っては離れ、いつの間にかまた違う女が傍にいた気がする。周りからはとっかえひっかえ、と言われていたものの、俺には誰にも関心が無いように思えた。誰が近寄っても壁を作り、誰にも心を許さない。
そして、いつも死にたそうな顔をしていた。
何に絶望しているのか知らないが、別に知らなくて良かったし関わらないと思っていた。そもそも俺も周りから色眼鏡で見られて遊び人だと思われていたし、適当に近付いてくるやつと遊んでいただけで誰も信用してなかった。そういう壁を作っているとは知らずに、外面の良さを見て皆近寄ってくる。本当に信頼して仲が良かった友達は数人しかいないし、大学の友達もほとんどが俺の本当の顔を知らなかった。
明るくて、ノリが良い。そんな自分を作っていることに疲れ、友人達から逃れて殆ど誰も使ってない校舎に辿り着いた時だった。飲み物とゼリーが入った袋を片手に、誰にも邪魔されないところがないか探して歩いていた。サークルで使われている部屋もあるが使われていない部屋も殆どだ。ゲーム脳の俺はここでゾンビが出たらああして、敵が出てきたらここに逃げてと、そんなことばかりを考えながら廊下を歩いていると、うっすら少しだけ開いているドアを見つけた。話し声が微かに聞こえるから誰かいるのだろう。というか、なんならこんな誰も来ないところに人が居る時点でなんとなくそう言う事もあるかもしれないとは思っていた。案の定薄く開いた部屋の中を覗くと二人の影が見えて、重なり合っていた。ああ、やっぱりかと思いながら部屋を通り過ぎようとすると、微かに声が聞こえた。
「止めて」
「なんで、」
「したくない」
予想外な言葉のやり取りに視線を部屋の中に戻すと、着ていたシャツは全て開けられて、ベルトも外された彼が彼女の腕を払いのけたところだった。それで、女子の方から迫っていることに気付いた。
なんとなく、興味本位だったと思う。その後も嫌がる彼に迫る彼女が鬱陶しくて、ドアノブに手を掛けて扉を開けると、昔はサークルで使われていたのか椅子と机が申し訳ない程度に置いてあるだけの部屋だった。ご飯を食べるには丁度いいかと思いながらいきなりの訪問者に呆然としている彼女を無視して部屋に入ると、女子が慌ててはだけていた服を整えた。
「な、んですか、」
「いや、此処でご飯食べようかと思って。続けていいよ」
「は?ちょっと意味わかんない……っ」
気まずそうに俺の顔と彼の顔を見ると、カバンを手に持って慌ただしく部屋を出て行ってしまった。
その背中を笑いながら眺め、机にビニールの袋を置くと椅子を引き寄せて座った。そのまま視線を彼の方に移すと少しだけ無色だった彼の目に色が付いた気がした。
「無料でセックス出来んなら食っとけばいいのに、勿体無くね?」
「……したくなかった」
「まー、あのギラギラさは死にたそうなお前には怖いかもな」
がさがさと袋から栄養補助ゼリーを取り出すとキャップを回して取り、飲み口を口に咥えた。スマホをどこにいれたかポケットを探していると、ガタガタと近くで煩い音が聞こえ、視線を移せば彼が椅子を引き摺って近くに寄って来たところだった。
「服装直せよ。セクシーすぎんだろ」
「……脱がされたんだよ」
寄って来た理由は分からないけれど開けたシャツからは整った筋肉が見える。不機嫌そうに眉を寄せるその顔は少しだけ人間らしく、机に肘を突いて彼の方を向いた。ベルトを直して、シャツのボタンを止めていくその指先はセクシーで、どこか憂いなその表情も端正な顔立ちに似合っている。
服装を直した彼が顔を上げると、俺の目をじっと見てきた。
「……名前教えて」
「俺?田中」
「俺、松村」
覚えて欲しいと、その目が言っている。助けたつもりはないが、そう感じたならばただの気まぐれなのに、捨てられた犬みたいに縋るその目から、目を逸らしたくなった。
「あー、松村な。分かった分かった」
肯定してやらないと罪悪感が生まれそうだった。真逆な見た目てはなくて、本質が少しだけ似ているから、ちょっとだけ踏み込んでみたくなっただけだ。
「松村はなんで死にてーの?」
「なんでわかるの」
「お前の世界だけ死んでるじゃん」
不躾な俺の言葉に目を少しだけ大きくした松村に構わず、ゼリーを吸っていると腕を掴まれる。
仕方なくゼリーを口から離して目を合わせてやると、松村はじっと俺を見たまま口を開いた。
「……田中は分かるの」
「俺は死にたくねーよ」
「違うよ。俺の事」
他人の事なんて分かる筈が無いのに、俺に希望を見出してしまう程人生に絶望しているのかと、少しだけ同情してしまう。
だから、知らねぇよ、とは言えなくて言葉が詰まり、その目に耐え切れず口を開いた。
「……誰も信用できないし、生きてて希望があるか分かんない?」
「生きてる理由が分からない。不安しかない」
「……生きてる意味、ね」
俺の腕を掴んでいるその手から体温が伝わってくる。確かに生きているはずなのに死にたいだなんて思っている目の前のこいつは、やっぱり少しだけ俺に似ている。
だから、同情した。
「意味なんてねーよそんなもん、」
「それは、うん」
「好きなこととか、目標があれば楽しくなんじゃね?」
無責任に放った俺の言葉を松村は、楽しい事、と反芻させるように呟いた。そうして漸く俺の腕を掴んでいた手を離した。
適当な事言っているとは思わない。俺だって意味なんて知らないし、あのゲームの発売日までは、このゲーム終わらせるまでは、あのゲーム機のハード手に入れるまではとか、そんな風に毎日過ごしてやり切っている。
「松村は欲しいものとかないのかよ」
「欲しいもの、」
「好きなやつとか」
「……」
黙ってしまった松村を見て溜息を吐いた。掴まれていた手が解放されて残りのゼリーを吸うと、飲み物を取り出して空になったゼリーのごみは袋の中に放った。パックのジュースにストローをさして飲むと、視線を感じて隣を見た。
じっと俺を見ているその目に、俺は弱いらしい。同情したせいか縋るような目が耐えられない。
「んだよ」
「田中の事好きになって良い?」
「は?」
突拍子もない言葉に思わず眉を寄せた。とんでもない事を言っている自覚はないのかじっとその目が覗き込んでくる。
俺に希望を見出すなんてどうにかしている。
ぐっと近寄って来た顔が整ってくる。目の色だとか目の形がいいとか、そんなどうでもいい事を考えている間に後頭部を押さえつけられ、唇を唇で塞がれてしまった。
微かに香りが女の匂いと違うだとか唇の柔らかさが違うとか、どうでもいいことばかりが頭の中を回る。
どうして、顔が良いくせに俺を選ぶ必要があるのか分からない。
分からないから余計に、俺を選んだこいつを突き放せなかった。
さほど抵抗しないせいで何度も角度を変えて啄ばむようにキスをされると、薄く開いた唇の隙間を割って松村の舌が侵入してきた。
舌に舌が絡まり、何故かそれが甘く感じ、心地よくさえ感じて怖くなってくる。肩を掴んで服を引っ張るけれど止める素振りはなく、寧ろ俺を離さないつもりなのか肩を突っ張らせて抵抗しても、強い力で身体を抱き寄せられた。
死にたいと思ってたやつの力じゃねぇ。上顎を北斗の舌がなぞればぞくぞくと背中に快感が走り、顔を何とか横に向けて唇から逃れた。
「止めろ、も、キスだめ」
「もっと田中とキスしたい」
「だ、め、ン」
至近距離にある顔から逃げたいのにまた後頭部を押さえられて唇を甘く噛まれ、力が抜けそうになる。
舌を吸われ、また舌が絡まってくると、今度こそ力を込めて松村の肩を叩いた。
流石に松村も驚いたのか少しだけ力が抜けたその隙に立ち上がると、今まで座っていた椅子が大きな音を立てて倒れた。その音に、なんとか冷静さを取り戻すと松村も俺の様子を見て察したのか、もうキスをしようとしてこなかった。
「なにしてんだよ、」
「俺、田中が欲しい。生きがいにさせてよ」
縋るような黒いその目が俺を見つめてくる。立ち上がった北斗に手首を掴まれてしまうと、ビク、と身体は震えてしまったけれど振り払うことは出来なかった。
少しだけ引き寄せられて縋るように俺の手を掴んでいる北斗には、俺を生きがいにするか、死ぬかしか選択肢がないかのようで、血の気が引くのを感じた。
ただの気まぐれのはずだった。どこか似ているから同情してしまった。嫌なくらい色気がある北斗の顔が好きだと思ってしまった。それでも、怖かった。俺は責任なんて負いたくないし、誰の重荷にも重荷を背負わされるのもごめんだ。
嫌だ、逃げたいと思うのに、掴まれた手が、やっぱり熱かった。
「……勝手にしろ」
俺の口から出て来たのは、自分でも思っていなかった言葉だった。勝手にしろ、なんて、どう考えたって拒否するべきところで、俺の意思と反している筈なのに、理解が出来なかった。
松村は俺の腕を引っ張り抱き締めると、勝手にする、と耳元で囁いた。
それからの松村は驚くほど変わった。俺を模範にしているのか明るく振舞い、俺の隣にいるのが不自然では無いようにグループに馴染んでいった。徐々に大勢のグループでは無く、二人だけでも行動できるように動き始めたことに気付いてはいたけれど、輪を乱すこともなく、自然と離れることが出来た。皮肉にも、俺は大学で気を張らなくて良くなり、気持ちが楽になった。
けれど、楽に成った反面、松村は俺に恋人のようなことを求め始めるようになった。それから、強く拒否できない俺は、なし崩し的に身体の関係にまでなってしまった。
大学を卒業した後も、月に一度でも会わないと北斗は仕事場にまで顔を出した。
正直、仕事や趣味などそういう生きがいが出来れば俺から離れて行くと勝手に思っていた。だからわざと連絡を返さないでいると、家の前で待っていたこともあった。
何が、彼にそこまでさせるのか分からなかった。
こんなふうに執着されるほど、価値がある人間だと思わない。確かにそこらへんにいる奴より見てくれは良いという自負はある。身長も高い方だし、声も褒められたことがある。なのに、自分に自信が無い。見た目ではなくて、自己評価だけが低かった。
だから、俺は北斗の事が理解出来なかった。
「愛してるよ、樹」
ホテルの部屋に入るなり、後ろから抱きしめられる。俺の存在を確かめるように強く抱き締めながら匂いを嗅いで、服の隙間から手を入れると肌をまさぐられる。その性急さに、頭はいつもついていかない。
無遠慮に、まるで北斗のものだとでもいうように身体を触られる。
「匂い、嗅ぐな、変態……」
項ら辺に鼻が当たり、身を捩ろうとすると肌をまさぐる手が突起に触れた。指でぐりぐり潰されて身体が跳ねると、すぐにスイッチを入れられる。慌ててその手を掴むけれど片方の手がベルトを器用に外していき、それに気を取られていると突起を爪で引掻かれ、刺激に腰が引けた。
いつの間にかガチガチに勃起しているそれを尻に押し付けられれば、勝手にお腹をゾクゾクしたものが走った。あの大学の時、なし崩しにそう言う関係になってから、俺は北斗しか知らない。北斗に教え込まれて、女を抱けなくされた。
「待て、って、なぁ、シャワー……っ」
突起を指で擦られて身体が熱くなる。北斗の腕を掴んでいるのに制止するための力が入らない。ベルトを外されると元々大きいジーンズは緩くなって下がり、容易く北斗の手がズボンの中に入ってきた。そして、下着の上から自身を揉まれてしまう。
「ほく、と、まじで、」
「先端濡れてるけど?ねえ、樹そう言ってさ、」
中、もう準備して来てるんでしょ、そう耳元で囁かれた。
恥ずかしさや情けなさで唇を噛み、首を振ってみせるけれど、それは否定ではない。北斗を拒否したいのに、突起をつねったり擦られて刺激され、ズボンの中で勃起している亀頭をぐりぐりと掌で擦られると甘い声が漏れた。
「ん、ん……っ♡」
「あーあ、……樹がメスになっちゃった」
うっとりした声で耳を舐められ、声も舌も纏わりついてくる。けれど、ズボンから手を抜かれてしまい、突然愛撫が無くなった。俺は思わず振り返ると、カリッと突起を爪で引っ掻かれ、気持ち良くて眉を寄せた。ただ、そうやって好き勝手に弄っていた手も止まり、離される。俺は身体の力が抜けて座り込みそうになるが、肩を掴まれてぐるりと反転させられた。
力が入っていないせいでホテルの壁にぶつかるように押し付けられ、痛くて北斗を睨めばその顔はへらへら笑っている。
やっぱり、どっかの頭のねじが一本取れてる。
「いてぇ、よ、」
「ごめんね」
謝っているなら謝っている態度をしろと思っているが、そんな悪態を吐いても聞かないことは分かっている。北斗は俺の服を捲り、その服の端を口元まで持っててきた。落ちないように噛んでおけ、と言いたいのだろう。促されるまま噛むと、もう文句も言えない。
従順な俺を見て満足そうに北斗が笑っている。分かってる。従う俺もどうかしているってこと。
屈んだ北斗が突起に噛みついて、北斗の舌が突起に絡むと生暖かくてぶるりと身体が震えた。湿ったそれが突起を転がして固くなっているそれをちゅうちゅう吸ってくる。
んな吸っても、何も出ねぇよと思うのに、吸われる度に気持ちよくなって、北斗の髪に手を差し込んで無意識に頭を撫でた。
「じゅり、気持ちいいでしょ」
「ん、ン♡」
律儀に服を噛んでいる俺もおかしいけれど、話しかけられても喋れねぇ。甘い声は勝手に出てしまうし、腰を撫でられて今からする行為に身体は甘く痺れて来る。従順になっているのを気付かれたくない。
服を手で押さえながら服から口を離して北斗を見下ろすと、突起を転がしているのが見えてゾクゾクとした。
「ベッド、北斗、」
髪に差し込んでいた手でぎゅっと髪を掴むと、強く突起を吸われてびく、と肩が震える。舌でぐりぐり突起を潰され、俺の声に北斗が顔を上げると、その口角は上がり、屈んでいた体を起こして唇を舐めてきた。
「ん、」
腰を撫でていた手は、腹筋をなぞってそのままズボンのボタンを外し、かろうじて引っ掛かっていただけのそれは床に落ちた。
下着だけになって一気に心許なくなると、北斗が下着の上から勃起している形を確かめるように指でなぞってくる。舐めるのを止めたからベッドへ移動するのかと思っていたのに、まだ続く愛撫に身を捩らせた。
揉むように触ってきて肩を掴むが、構わずに次は下着の中に手を入れられた。
「北斗っ、おい、」
「樹は優しく抱かれたい?」
「は?」
「でも激しいのも好きでしょ?」
眉を寄せて食って掛かろうとするのに、自身を握られてしまえば身体が震えた。そこを握られたら強い反論は出来ず、にこにこと笑っているその目から目を逸らして唇を噛むと、覗き込んできた北斗に唇をまた舐められた。仕方なく睨むように視線を戻すと、余裕のある顔にイラついた。
「お、まえ、俺の事なんでも知ってますって顔、ムカつくから止めろ」
「違うの?」
「黙れ」
段々腹が立ってきて不意を着いて北斗の肩を押せば、流石に北斗も予期していなかったのか身体を離した。俺はやけくそに服を脱いで放り、ズボンから完全に足を抜いて北斗を無視してベッドの前まで歩くと北斗の方を振り返り、ベッドの端に座って下着も脱いで、ベッドの下に放った。
「お前の言う通り準備なんて終わってんだよ、さっさとしろ」
色気も何も無いようにわざと無骨に振る舞い、ベッドに足を上げるとそのまま足を開いて見せつける。なんでもない、身体を見せることなんて、恥ずかしくない。そうやって意識しないようにして北斗を煽ると、北斗はメガネをとって机に置き、服を脱いだ。
丁寧に服とズボンを机に置くと下着のまま近寄って来て俺の目の前に立つ。そして、俺の頬に手を添えて親指で大事そうに頬を撫でる。それは、先程の荒々しさとは違って、優しくて嫌になる。そのままその指で唇をなぞられれば、反抗的にその指に噛み付いて見上げる。思い通りになんてなってやらないと態度で示せば、肩を捕まれ乱暴にベッドに押し倒された。
「樹は、なんで俺のものにならないの」
怒っているのか悲しいのか、良く分からない声を出す北斗の顔を見上げても、その表情はどこか読み取れない。俺の目をじっと見てくる北斗に、わざと馬鹿にした王に鼻で笑ってみせると、目を細めた北斗は身体を起こして下着を脱いで、投げた。
「身体に聞くからいいよ。俺のものだって、ちゃんと教えるから、」
「は、……べらべらうるせーよ」
悪態をつく俺の太ももを掴み、無遠慮に開くと、ベッドの上に乗ってから猛ったそれを入り口に擦り付けられた。触っても舐めてもないのに固くなっている北斗のそれに、期待しているのを気付かれないように唾を飲んだ。
弄られると途端にそこが緩くなる感じがする。先走りを入り口に丹念に塗り付けられ、力を入れないように息をゆっくり吐いた。
「ちゃんと準備してきてるのに、素直じゃないよな」
「いきなり突っ込まれて痛ぇのはごめんなんだよ。じこぼうえ……いっ♡」
話してる最中に突然ぐぷぷ、と、亀頭がねじ込まれて言葉の端が飛んだ。慣らして時間が経っているから、きつくて大きくて、苦しい。
腕で顔を覆って隠すと視界が無くなったからか余計にそれを感じてしまう。じわじわ入ってくるそれが、前立腺を掠めるくらいで北斗の手が俺の腹を這う。前立腺に押し付けるように角度を変えて腰を揺らされ、腹にある手が少しだけ力を入れて前立腺を上から押してくる、中と外から前立腺を刺激され、気持ち良くて視界がチカチカする。
「ぐ……あ♡♡~~~っっ♡♡」
「樹ここいじめられんの、好きでしょ?」
まだ快感が追い付いていないのにぐりぐり押し潰されて足に力が入ってしまう。口から甘い息が漏れて一気に快楽に引き摺り降ろされた。突然与えられる快感に息を荒げ、逃げたくて顔を隠していた手をシーツに下ろして掴み、後ろに逃げるために身体を少しだけ引く。けれどそれに気付いた北斗が、ふっと笑った。
「なんで逃げんの、ねぇ?」
ねっとりとした声で纏わりついて、腰を掴まれる。嫌な予感がしてヒッと喉が鳴った直後、北斗自身が一気に中を押し広げて貫いた。
「ッ~~~~~~あああっ♡♡♡」
奥まできたそれにがくがくと足が震え、視界はチカチカして身体が仰け反る。必死に息を何度も吐くと、腹筋まで痙攣している。
「中ぎゅってしてる、樹の身体は俺のが大好きなのにね?」
「っあ、ぐ、ん♡♡」
腹に温かいものが垂れた。一気に入れられたせいで俺自身から精液が少量出てしまったらしい。俺の身体も相当いかれてしまってる。もう、自分の意思ではどうにもならない。
痙攣がおさまるのを待てば、ゆっくり腰が揺れ始める。中を引き摺られて擦られ、押し広げられて奥をがつがつ押される。
「俺のが樹の子宮にキスしてるの分かる?」
「は、きしょ、っあ♡♡んん♡♡」
ぐりぐり何度も奥に押し付けられてまた逃げ腰になるけれど、北斗にしっかり腰を固定されているから動けない。北斗は身体を屈めると、俺の胸に舌を這わせた。
汗を沢山掻いたのにシャワーさえも浴びさせて貰えず、ホテルの空調も足りず、また汗が滲んでくる。北斗の額からも汗が伝い、俺の上に落ちているのに構わず何度も何度も胸を舐め、脇の近くまで舐めてくる。慌てて髪を掴むと、眉を寄せた北斗が俺を見上げた。汗を掻いているのにそんなところを舐めようとすることなんて信じられず、眉を寄せて北斗を睨むと、突然がつんと腰を振られた。
「っあああ♡♡」
大きな刺激にびくんと大きく身体が跳ねる。与えられた刺激に目の裏がチカチカしていると、止められたことが不服だったのかまた舐めようとしてくる。俺は慌てて脇を閉じ、首を振った。
「っ……♡やぁ……っ舐めたら、キス、しねぇ、から、」
嫌がっている俺の顔を見た北斗が嬉しそうに笑い、身体を起こす。俺は何故北斗が笑っているのか分からず見上げると、綺麗なその顔から汗が伝って顎に雫を作っている。
頭がぼんやりしている俺は手を伸ばしてそれを掬った。北斗は少し驚いた顔をしていて、俺も、何でそうしたか自分で分からなかった。
ただ、綺麗だと思った。綺麗だと思ったそれが落ちてしまうと思った。腰を掴んでいた片手が汗を掬った俺の手首を掴むと、愛し気に頬ずりをして、奥が、きゅうっとして、北斗が熱い息を吐いた。
「いつになったら、一緒に住んでくれる……?」
ねっとり甘ったるい声を出しながら、律動を再開される。腰を振られる度に太ももはビクビク震え、中を往復するそれに全部引きずり出されそうで怖くなる。恐ろしくて気持ち良くて首を振ると、北斗が頬にあった俺の手を離し、身を乗り出して足を抱えて膝立ちになった。
高く腰が持ち上げられて結合部が全部見えてしまう。受け入れて赤くなったそこが、掻き出されたローションのせいでぐちゃぐちゃであまりにもいやらしく、ひっと喉が鳴った。
「樹、樹は俺のだよ。ここも、俺が好きだって、だからもういいでしょ」
甘く甘く囁いて、刷り込まれる。俺の手を掴んで引っ張ると、そこを確かめさせるように触らせてくる。ぐちゃぐちゃでひくついて、北斗が動くのを待っている。中に入っている太いそれが熱くて、思わず手を振り払った。
すこしばかりしかないプライドを、根こそぎ取って剥いで俺を手に入れようとする。俺は精一杯平静を装って、馬鹿にするように舌を出した。
それを見た北斗が怖いくらい綺麗な顔を歪めて笑った。
「そっか、じゃあ壊すね」
低い声がそう言い放つと、ずりずりと俺の身体を運び、枕の近くまで移動させられる。俺の頭の上にあるベッドボードを掴んだ北斗は挿れたまま立ちあがり、高く持ち上げられた腰に、血の気が引いた。
「まって、や、めろ、」
情けない声が、口から洩れる。怖くて北斗のベッドボードに掴まっている手に掴まり、もう片方はシーツを握り締めた。腰を引きたい。逃げたいのに、足は抱えられていて逃げ場がない。
足を閉じたいのに体を割って入られているから閉じられず、固い身体は開かされて少しだけ痛い。俺の言葉を聞く筈もない北斗が俺の事を愛しそうに見つめている。息が上手く出来ず、視界は水分が多くなっているせいで良く見えなくなってきた。
「樹、愛してるよ」
囁かれ、にっこり笑った北斗が腰をゆっくり引いてから腰を急速に落とした。パンッと腰を打ち付けられ、ぐぽん、という音を立てて亀頭が奥にめり込んだ。入ってはいけないところに、北斗の亀頭が侵入している。いいようのない快感に、頭が真っ白になった。
「やっ~~~~ぁああっ♡♡♡ぐぅううっ♡♡♡」
深いところを突かれ、びりびりと脳がしびれ、許容範囲外の快感に意識が飛びそうになる。いっそのこと、意識を飛ばしてしまいたかった。
「あー、……樹の子宮が吸い付いてる、気持ち良い……」
北斗の甘い声が聞こえてくる。どろどろに甘くて洗脳されるみたいに響いて、びくびくと腹筋の痙攣が止まらない。自身からはだらしなく精液が垂れて胸を汚している。中の北斗自身を意図せず締め付け、形も分かる。それがまたぎりぎりまで引かれ、パンッと音を立てて一気に腰を落とされた。
「んあああ゛♡♡♡……っあ、あ……♡」
ぐぽん、と体の中から音がする。掴んだ手に爪を立てて握り、快楽から逃げたくてシーツを掴んでいた手を離し、北斗の身体を押し返そうとするのに、ぐりぐりと亀頭をねじ込まされて、息が出来ない。口をパクパクさせると北斗は眉を寄せながら笑っている。ビクッビクッと身体が跳ね、制御不能になり、ぐるんと視界が回って、真っ暗になった。
ぐぽぐぽ、と身体の奥から音がして、息が出来なくて目が覚めると、失神していた俺に構わず、北斗が腰を振っていた。
「や、だ、やぁだ、っ♡♡♡」
「あ、樹起きた、ねえ、このまま中に出して良い?良いよね?」
「やだやだ、やめろ、やめて、動くなぁっ……!♡♡」
「イク、出すよ、樹」
身体を逸らせて首を振るのに、腰を固定されている。北斗が、俺の言葉を聞き入れる事は無い。快楽に引きずられて逃げられず、壊れたみたいに俺自身からはさらさらとした精液が出ている。意識がない間に、何度もイッていたのかと思うと泣きそうだった。パニックになっている俺の中にがつん、と北斗のそれがねじ込まれたと同時に、波打ったそれが俺の中でビクビクと精液を吐き出した。
腹筋が痙攣し、足も震えていてずっと指が張りっぱなしで、中にはどくどく熱いものが流れてくる。あまりの快感にひきつけをおこしたように上手く息が出来ない。
許容範囲を超えた快楽に呆然としていると、硬度を無くした北斗のそれがゆっくり抜かれていく。高く持ち上げられていた腰が下ろされ、ベッドに投げ出された衝撃に身体は跳ね、びゅく、と自身からは精液が垂れた。
「ふ、あ……っ♡」
痙攣が、治まらない。継続されていた絶頂は刺激を与えられなくなっても止まらず、身体は何度もびくびく跳ねている。
「樹、舐めて?」
俺が放心している間に北斗が胸の上に体重を掛けないように跨ると、どろどろになっている北斗自身を薄く開いた口に押し当ててくる。歯を立てないようにか指で口を開かされると、そのまま北斗のそれが口の中に入ってきた。
反射的に舌が口の中に入って来たそれを押し返そうとして、ぬるりとそれに触れると熱い息が聞こえた。疲れているせいで抗う力も無い。仕方なく舌を這わせてそれを舐め取れば、興奮しているせいか味も気にならず、軽く吸うと北斗の手が優しく頭を撫でた。満足したのか口からそれが引き抜かれると、指が唇をなぞり、上から退いて横に寝転がった。
ゼーゼーと、肩で息をしながら天井を眺めていると、勝手に涙が流れてきた。
その涙に、意味はない。悲しいという感情も苦しいという感情もなく、ただ勝手に涙が出た。
北斗がそれに気付いて北斗の方に顔を向かせられると、その端正な顔が目を細めて大事そうに頬を撫でる。
「樹、愛してるよ。愛してる。樹は俺の全てなんだ」
溶かすような甘い声で俺に囁いて、身体を引っ張られてその腕に抱き締められる。ぐちゃぐちゃに汚れた腹の上の精液も気にせず、ぎゅっと抱きしめるその腕に俺は目を閉じた。
だらりと力が抜けた俺の身体を北斗が抱き締めながらキスをして、優しく撫でている。
そうやって暫く撫でてくれる手に安心し、目を閉じたまま呼吸を整えていると、北斗は俺の身体を離した。隣で起き上がった感覚がしてシャワーをでも浴びにいくのかと思って目を開ければ、北斗は俺の肩を掴み、横を向いていた身体をうつ伏せに反転させられた。驚いて振り返ろうとすると、足の上に跨った北斗が、閉じた尻に自身を擦り付けてきた。
まだ猛っているそれに驚き、後ろにいる北斗を凝視すると、俺の視線に気付いた北斗が何も言わずに微笑んだ。
「ま、て、むり、しぬ」
掠れた声でどうにか止めようと腰に置かれた手を掴むけれど、ベッドに押し付けられて動けない。北斗の手によって尻を開かされると、先ほどまで受け入れていたそこは容易く北斗自身を飲み込んでいく。
「あ、あ♡」
「樹の中にずっといたい、」
「んなの、無理、ぃ……っ♡♡」
もうしたくないのに入り口を擦られ、また勝手に熱を上げられて広げられ、そこにゆっくりゆっくり入ってくる。
また与えられる快楽に枕に顔を押し付けると、北斗が背中をなぞってくる。勝手に触って勝手に入れて、俺の全てを分かったふりをして、何も分かっていない。
無遠慮に俺の中を擦り、気持ち良くされながら、ベッドに突いている北斗の手を、ぎゅっと握る。
お前はさ、俺を手に入れたらまた死にたくなんない?ならないとは言えないだろ、なら、その願いを俺は叶えない。
北斗の生きがいになることが、俺の生きている意味になるから。
誰よりも、重いのは、きっと俺だ。

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