夜が明けない。

寝てしまったらいつもなら朝まで起きない筈なのに、今日は何故だかふと、目が覚めてしまった。それは俺が起きる前からずっとそうだったのか、背中や肩をそっと撫でられている。その体温は心地よく、安心する。けれど、どうしたのだろうか。彼も起きてしまったのか、気になりながらも、起きたのに気付いたらやめてしまいそうな気がして、そのままなんとなく寝たフリを決め込んだ。

ジェシーの手は大きい。
なにもかも自分と違うジェシー。
愛しい、俺の恋人。

撫でられたながら意識が醒めてきて暫く、徐々に現状が分かってきた。隣に体温やベッドの沈んだ感覚がないから、ベッドの端にでも座っているのだろうか。それ以外の情報が欲しくなって、俺は寝言のように声を発した。

「んん……」

寝返りをごろりと打って体勢を変えて、背中を向けていた身体をジェシーの方に向ける。ジェシーも一瞬起こしてしまったかと不安になったのだろうか、息を呑んで触るのを止めてしまった。きっと、様子を見ているのだろう。
起きていることがバレてしまったかもしれないと、少しドキドキしたけれど、暫くしてから暖かい手が頬を優しく撫でた。
寝返りを打った時に顔にかかった髪の毛を、そっと撫でつけてくれるのが少し擽ったい。そうしてやっとベッドのスプリングが軋み、俺の隣にベッドが沈んだ感覚があった。
寝る気になったのかとなんとなくホッとすると、また優しく頬を撫でられ、キスを落とされた感触があった。俺が起きないように、そっと優しく。
「I love you」
そう、小さな声でジェシーが呟いた。その声は幸せを感じてなのか、それとも何かを憂いているのか、分からない声色で、何故だか胸がぎゅっとした。

両思いのはずなのに、ジェシーはたまに片思いみたいな顔をすることがある。

俺はそれを埋めたくて、出来るだけ好きだということを伝えている。それが伝わっているのかは、正直自信がない。
けれど、俺の愛情表現に、いつも嬉しそうにしてハグしてくれるし、「俺も」とキスをたくさんくれるのに、たまに見せるその悲しそうな顔はなんで?

暖かい手が離れ、うっすら目を開けるとジェシーは天井を見ていた。何を考えているのだろう、寝れないのか?目が覚めた?そう声を掛けたいけれど、その整ったただ顔を眺めることしかできなかった。

ジェシーが消えてしまいそうなそんな気がして、ジェシーの頬に手を添えてこっちを向かせると、驚いた顔で俺のことを見てくれた。
「俺も、……愛してる。I love you too.」
先程のジェシーの言葉に答えると、驚いた顔が緩み、照れたように笑っている。暗くて良く見えないけれど、きっとそうだと分かる。
「じゅり。起きてたの」
「たまたま起きたんだよ」
そう言いながら頭の下に腕を通してくる。俺は頭を少しあげて腕枕してもらえば、そのままぐっとジェシーの方に身体を引き寄せられた。

大きな手に抱き締められて、俺は安心してるよ。ジェシーはどう?

そう尋ねる代わりに背中に手を回してぎゅっと抱き締め返すと、睡魔がまた襲ってきて頭が働かなくなる。
まだジェシーが切ない顔していないか確かめたいのに、瞼が重くなってしまう。温かい彼の胸の中で、俺は再び眠りに落ちた。

 


すう、と樹の瞼が閉じてしまった。その頬を優しく撫でながら、問い掛ける。
「じゅり、寝た?」
腕の中ですぅすぅと寝息が聞こえる。確かめてみたけれど、返事が無くてホッとした。起こしてしまったのだったら可哀想だった。
髪にキスを落とし、布団をかけ直して自分も仰向けになる。
樹はすっぽりと脇の下に入っていて、俺の腕を枕にしていて収まりがいい。

ねぇ、樹。俺はね、樹が好きすぎて背中を向けて寝られるのが悲しいんだ。
ずっとこっちを向いて俺の名前だけを呼んでいて欲しいよ。
両想いなのに俺は欲深くて、どんな樹も欲しくなるんだ。
樹が良いって言うなら家にずっと居て、誰にも会わずに俺だけを待っていて欲しい。いっそのこと軟禁してしまえたらなんて思っている。でも、俺は樹を閉じ込めているという罪悪感に耐えられずに、きっと泣いて手を離してしまうかもしれない。

俺が手を離してしまった方が幸せになるような気がして、怖いんだ。

儚く消えてしまうような気がして、怯えている。

確かに腕に感じる重みや寝息は樹のものなんだと感じながら、安心しきって寝ている樹の顔を見て少し満たされて目を閉じる。

 

いつか不安や恐怖から目が覚めるような朝は来るのだろうか。

それとも……

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