「俺、お前に騙されると思わなかった」
拗ねた声でそう言った樹は口を尖らせ、長い前髪の中で目を細めて不機嫌そうだ。その顔を覗き込むと恨めしそうにこっちを見た後で逸らされた。どうやら、拗ねてしまったようだ。番組の趣旨は理解しているのに、もやもやと納得できていないらしい。
収録が始まる前は、明日が久しぶりにお互いのオフということもあって、仕事が終わったら久しぶりに家でゆっくりお酒を飲もうと言っていたのに、マネージャーが送ってくれている車の中で、既に様子が可笑しかった。
家が近いこともあり、樹の家では降りずに一旦家に帰ってからパソコンを持ち、途中のコンビニで適当にお酒を買って樹の家に行くと、玄関で開口一番そう言われてしまった。
俺が持っている荷物を何も言わずに樹が引っ張り、促されるまま肩から外すと荷物を預ける形になった。樹はそのまま何も言わずにスタスタとリビングに戻ってしまい、俺は玄関で靴を脱ぎ、その後ろ姿を追いかけた。
リビングに入り、荷物は机の上に置いた樹はソファーの上で体育座りして、クッションを引き寄せて抱き締めている。
警戒心を持たれてしまったことに苦笑いし、上着をカバンが置いてある机に一緒に置いてから、樹の隣に座った。
「……じゅーり」
頭を優しく撫でるとクッションを抱いたままこっちを見ている。
口元が見えないからいまいち表情は分からないが、口が尖っているのがなんとなく分かる。髪を暫く撫でていると、徐々に情けなく眉が下がっていき、抱きしめていたクッションが隣に置かれた。俺が来るまでにシャワーを先に浴びていると思っていたのに、帰った時のままで相当色々考えていたことが分かった。
邪魔なクッションが無くなり、その細い肩を引き寄せて肩に顔を凭れかからせると、樹も大人しく肩に顔を置いた。そのままその髪に、キスを落とす。
体育座りしていた姿勢を崩し、俺に身体を預ける。俺は身体を支えるために、樹に身体を向ければ、その顔は何処か沈んでいる。心配になって頬に手を添えると、樹の手がその手にそっと添えられた。
何か伝えようとしてくれているのは分かるけれど、上手く言葉に出来ないのだろうか、目を伏せてしまった彼のこめかみにキスをする。
「じぇす」
甘えた声で名前を呼ばれ、優しく微笑みながらその顔を見詰めると、顔が寄せられる。鼻先が当たった所で、それは唇に触れることなく樹が見詰めてくる。
頬に添えていたままの手でぐっと樹の顔を引き寄せれば、目が閉じられた。それを合図に、そのまま唇に唇を重ねた。
温かい唇の感触に何度も唇を重ねると、樹の息遣いも少しずつ荒くなる。手に添えていた手が離れて、俺の首に腕が絡まった。
その身体を引き寄せ、腰を軽く叩いて促すと、キスをしたまま膝の上に移動してくれる。
膝の上に来たことで樹の方が少し自分より位置が高り、樹のキスも積極的になる。角度を変えて、深いキスになっていく。
その腰を抱いて背中を摩ると、唇が離れてしまう。樹の片方の手が俺の頬を撫でて、じっと顔を見てくる。
まだ上手く言葉に出来ないのか触れるだけのキスをすると、また首に腕を絡ませて肩に顔を埋めた。
「……ジェス、演技上手くなったな」
「そう?やったぁ!ははは!」
ポソリと呟かれた言葉に頭をポンポンと撫で、わざらしくおどけたように言うと、首に埋められていた顔を上げて樹は眉を寄せてから軽く頭を叩いてきた。
「いた、暴力反対!」
「……ふ、暴力じゃないし、ツッコミだし」
おどけている俺に漸く樹の頬が緩んだ。やっと見れたその顔に嬉しくなって両頬を手で包んだ。樹は照れたように笑い、警戒心が取れたことを知ると、その顔を引き寄せて軽く触れるキスをした。
「お酒買ってきたよ」
「ん、……風呂は先に入る?」
そう聞いてくれるという事は、お風呂を貯めていてくれたらしい。もやもやしながらもそうやってちゃんと準備していてくれたことが嬉しくて、微笑んで頷くと樹が膝から降り、立ち上がってぐっと伸びをした。
「んー……あ、酒冷蔵庫に入れるか」
思い出したように机の上に置きっぱなしの袋を樹が拾うと、キッチンへと歩いて行く。その後ろを何となく着いて行くと、樹が冷蔵庫を開けて中に袋を無造作に入れ、俺の方に振り返った。
「なんで着いて来たんだよ、風呂行こうぜ」
つれない事は言いながらも嬉しそうにしている。その手を取ると、にやけた顔を抑えるように口を尖らせた。その表情が可愛くてそのまま覗き込んでキスをすると、照れているのか「んだよ」と言いながら睨むようにこっちを見た後、笑って手を繋いだまま一緒にお風呂場に向かった。
お互い身体を洗い終わった後で、重なるように浴槽に浸かる。樹は当たり前の様に俺に寄り掛かってきて、心地良い。その身体を抱き締めると、肩を竦めて笑っている。
樹は湯船の中の俺の手を探して見つけると、手を繋いできた。ツンツンしていた後の反動なのだろうか、甘えん坊になったようだ。
「ちゃんと筋肉ついたよな、ジェス」
「本当?ありがとう」
逞しくなった腕を見てそう言っているのだろう。努力を褒められると嬉しいもので樹の耳に唇を寄せると擽ったいのか身を捩って見せる。
そうやって笑った後で真面目な声が聞こえた。
「……ごめんな、今日」
俺の手を取って指を絡めて遊びながら、樹が謝る。俺は「気にしてないよ」と言うけれど、樹は首を振った。
「……番組の趣旨だし、すげぇ!って思った反面、さ」
「うん」
「……ちょっと寂しかったんだよな、俺が知らないジェスがいるんじゃないかって、そんでさ、」
苦笑いしながら振り返り、俺の目を見つめる。俺は絡まっている指を握り返し、相槌を打って見せると、安心したのか言葉を続けた。
「なんか一瞬遠くに感じちゃったわ」
笑って誤魔化し、そう言った樹は身体を俺に寄りかからせて、「わけわかんないよな」と、自嘲気味に笑ってみせた。
その後「逆上せそう」と言いながら立ち上がると、浴槽の淵に座った樹は気まずいのか目を合わせてくれなかった。
「……そろそろ出る?」
「うん、そうだな」
そう俺が言うと、頷いて俺の方を見て漸くぎこちなく笑い、先に樹が立ち上がって浴室を出た。自分も追うように浴室を出ると、樹がタオルを差し出してくれた。
差し出されたタオルを受け取り、軽く身体を拭いていると、濡れている樹の身体から雫が落ちていく。
背中を向けて身体を拭いている樹の身体に手を伸ばすと、そっと後ろから抱きしめた。
「、び、っくりした、じぇす、……んっ」
突然抱きしめられてびっくりした樹が、俺の方を振り返る。俺はそうすると分かっていて、そのままその唇を奪う。逃げられないように顎に手を添えて固定させ、唇の隙間から舌をねじ込む。びっくりしたままの樹は俺の腕を掴みながらも止めようとはしていない。樹の舌を見付け、その舌に舌を絡ませる。生暖かい樹の舌は甘く感じる。吸って、角度を変えて歯列をなぞってまた舌を絡ませる。荒い息を時折吐いてキスに応えてくるようになった樹が、身体を凭れかからせてくるのを見て、もう片方の手で腰を撫でるとビク、と身体を震わせた。甘い痺れが身体を支配する。彼を気持ち良くさせたくて、乱れさせたくて欲望に飲まれてしまいそうになる。けれど少しの理性で唇を離すと、目をうるうるさせた樹が俺を見つめた。
その仕草が可愛く、もう一度軽く口付けると耳に唇を寄せた。
「樹、俺たちに距離はないよ」
「わか、ってる」
「……本当に?確かめていい?」
そう囁くと、ぶるり、と樹の身体が震えた。
*
俺の知らないジェスが居るみたいで悲しかったけれど、番組の企画だし、こういう事が今から仕事でまたあるかもしれない。
俺だって皆を騙したことがあるし、こんな風に思う事自体に罪悪感はあった。俺が騙した時、ジェスも俺と同じように思ったのかな。
「これ、物理的に、ってこと、じゃんかぁ♡」
ぴったりくっついて、なんなら、俺の中にジェシーの大きなのが入って、離れているところがない。むしろ、1つになってる。確かに、ジェシーの言う通り距離なんてない。無いけれど、俺が言っていたのは精神的なもので、こういうことじゃないのだが、奥に亀頭を押し付けられて何も考えられなくなりそうだった。
ジェシーは奥まで入れた後は押し付けるだけで動かないで、顔中にキスを落としてくる。
根元近くまで埋め込まれて中はパンパンで、ジェシーのが腹に浮き出てしまって嫌でも自分の中に彼がいることを自覚させられる。
「物理的?あぁ、そうかもね、樹の中に入ってるもんね」
「んんんんっ♡♡」
ジェシーがそう言って腰を軽く振ってきた。いきなり動かれて甘い快感が走り、ビクンと腰が震えてしまう。
気持ち良くてもっと動いて欲しくてもどかしく、腰を太ももで挟むとジェシーが優しく頭を撫でてくれた。
「不安に思ったらすぐ言って」
「ん、分かった、」
「俺には裏も表もないよ」
「知ってる、」
ジェシーに裏も表も無いことくらい、分かっている。そして、俺のことをめちゃくちゃ愛してるのも、知っている。けれど、ちょっと寂しかったんだ。他の顔があるのかもしれないと、疑心暗鬼になってしまった。
「ジェス、凄く、愛してるって、教えて」
「うん、もちろん」
頬を優しくジェシーの指が撫でて、唇が重なる。隙間から舌が入ってくるとゆっくりゆっくり味わう様に舌を絡ませられて、その舌に吸われてしまう。
好きだよって言うように頬を親指が擽り、唇が離れてその目を見詰めると、もう一度触れるだけのキスをされた。
腰が揺れると、すっかりなじんだそれは、俺の事を直ぐに気持ち良くさせてくれる。ジェスの肌が触れている全てのところが温かくて安心する。背中に手を回して、擦り寄ると熱い息が耳元で聞こえる。僅かに早く脈打つ胸の鼓動が聞こえて、それから、ゆっくりゆっくり腰が動かされる。
中に入っているジェシーのカリが気持ちいいところを刺激しながら中を行ったり来たりして、内壁をゆっくり擦られて、広げられ、刺激される。
「ん、あ♡じぇす……♡」
甘ったるい声が漏れる。ジェシーにしか見せない顔。声。もっと見て欲しくて、自分を曝け出す。
「もっと、激しくして♡壊れないから、な?」
「……じゅり、可愛い、壊したいくらい、愛してる」
少し乱暴に唇を塞がれたのを合図に、腰の動きが早まる。優しかった律動が荒々しいものに変わり、絶え間ない快感で息が上手く出来ない。太いものが体の中を押し広げて擦り、奥まで突き上げられてびりびりと頭がしびれる。
「んん~~♡♡も、じぇす♡きもちい♡……あぁ……っ♡♡すき♡」
「俺も、」
切羽詰まった声で囁やかれ、身体を抱き締められて固定されて腰を振られると逃げ場がなく、がつがつと奥を抉られ、行き過ぎた快感に足が痙攣したように震えている。飛びそうなくらい、気持ち良すぎて馬鹿になってしまいそうだ。
「あああ~~~~~っ♡♡も、だめ、ッ♡」
「だめ、なの?」
耳元で低い声が俺をいじめる。駄目じゃないことくらいわかっているくせに中を掻きまわすようにぐるりと腰を回され、足に力が入ってジェシーの腰を太ももでぎゅっと挟んだ。
嬉しそうにジェシーが笑って、浅く挿入を繰り返す。
「ふ、いじわ、る♡……ちゃんと、中、して……♡」
「おねだり上手だね。可愛い」
よしよしと頭を撫でられ、ジェシーのその手にすり寄る。早く、と急いで自ら腰を動かすと、気持ち良くて腰の動きが止まらなくなる。
下で腰を動かす俺を見てにこにこしている。その余裕を壊したくて、わざと力を入れて中のジェシーを締めると、その綺麗な顔が一瞬歪んだ。
「ん♡じぇす……♡きもちい?」
「……気持ち良いけど、余裕あるね、じゅり」
嬉しくなって煽る俺に、眉を寄せてジェシーがそういうと、俺に折り重なってた身体を起こして、両太ももを両手で抱えられた。
腰が浮いた状態なると、いやでも自分の下半身が見えて、自分自身からはだらだら先走りが漏れているし、腹にはジェシーのが浮き出ている。恥ずかしくて顔が赤くなっていくのが分かってしまう。首を振ると、ジェシーがゆっくり腰を引いて行く。ぎりぎりまで抜かれたそれに、今からされることが分かってしまい、シーツを握り締めると、一気に腰を落とされた。
「ああああああ゛っーーーー♡♡♡」
「あ、すご……」
ぐぽん、と中で音がした瞬間、許容を超えた快感に頭が真っ白になる。ジェシーのそれが結腸の入り口にねじ込まれ、脳がびりびり痺れている。自身からはあまりの快感にびゅくびゅくとだらしなく白濁の液が吐き出されて、胸を汚している。吐き出された精液の匂いがし、目の裏がチカチカしてぼんやりそれを眺めていると、ジェシーのそれを締め付けてしまったのだろうか、ジェシーが気持ち良さそうに吐息を漏らした。
ジェシーも感じてくれているのが分かって、嬉しい。でも、また最奥をぐりぐり押し付けてられて、脳がびりびりして、怖い。またアクメしてしまいそうで、慌てて動きを止めさせようと手を伸ばした。
「じぇす……う、入んな、む、り゛ぃ……っ♡♡」
いやいや首を振るのにも構わず、またぐぽぐぽと音を立てながら侵入される。危険信号が頭の中で点滅している。これ以上は本当に駄目だと俺の足を抱えているジェシーの腕を叩くと、漸く気付いてくれたのか、腰を下ろしてくれた。
「ッ♡……っおく、だ、め」
「……樹の奥が、俺の精液欲しいっていうから、」
「っ……ば、か」
「ん、中、締まったよ…?」
きゅう、と締め付けてしまった自覚があるから恥ずかしくて目を逸らせば、クスクス笑われてしまう。悪態を吐きたいけれど快感のせいで頭が回らない間に、愛情たっぷりのキスを額に落とされた。
「違った?」
「……うっせー、早く中で、出せっ♡」
悔しくなり、自ら腰を揺らしながら言うと、ジェシーが目を細めた。何かのスイッチを入れてしまったのか、またジェシーが俺の足を抱える。腰が持ち上げられた時には何か言う猶予もなく、腰を打ち付けられた。
パンッと肌がぶつかる音と共にジェシーのそれが深く埋め込まれる。身体の奥でジェシーのカリがちゅくちゅく入っちゃいけないところを擦っている。その度に身体が仰け反り、足が痙攣してシーツを必死で掴むが、快感から逃げられない。耐えようのない快感に飛びそうになるのに、気持ち良すぎてすぐ引き戻される。
「ん゛うぅっ!♡あ゛ーー♡♡イグ、イグぅぅ♡♡」
「……っじゅり、出すよ、中で、」
獣じみた嬌声を上げながら、俺は絶頂を迎えてしまう。びゅくびゅく、また、胸に自分の精液が吐き出されると、身体の奥、結腸の入り口でジェシーのそれがドクドク波打つ。生暖かいものが腹に出されていく感覚さえも気持ち良くて、「あっ♡」と喘ぎ声をあげてしまう。
ゆっくり、ジェシーのそれが抜かれると、ぽたぽたと精液とローションがシーツを汚している。イッた余韻で身体が小刻みに痙攣し、何度もびくん、と跳ねてしまう。ジェシーは俺の腰を下ろすと、そのまま俺の身体に覆い被さった。
頭は朦朧として、ゼーゼー死にそうに息を吐いている俺の頬に、キスが落とされた。
「愛してるよ、樹」
「ん、ん?」
「……大丈夫?」
「だい、じょぶ、俺も、じぇすだいすき……」
呂律が回らない俺に、優しく微笑んでまたキスが落ちてくる。
「……処理しておくから、寝てもいいよ」
さらさらと髪を撫でる手が心地よく、なんとか頷いてみせる。本当はもっと話したいけれど、ジェシーの手にすり寄って、その顔を見詰めた。
大事にされて、自分が壊れ物の様に扱われて、最初は嫌だったのに、愛されている実感が湧いて嬉しくなってしまう。ジェスは、どんどん俺を溺れさせる。
だから、嘘も少し寂しかったのに、結局、それも溺れているからなんだって、自覚させられた。
深みにはまっていくことで、俺はもう、ジェシーから、離れられない。
どんどん、ジェスに堕ちてく。
もう、戻れないくらいに。

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます