これ、先輩ですよね?
そう言って見せられたスマホの画面には、自分のアカウントが表示されていた。
思わずとヒッと息を止めた。反応してしまったことでもう取り繕うことも出来ないことは分かっていたけれど、ぎこちなく笑って見せて、目を逸らしながら「知らない」と苦し紛れに嘘をついた。
「そうなんですか?」
フッと可笑しそうに笑ったジェシーは、スマホを自分の方に戻し、それを眺めながらちらちらと俺を見ている。画面の中の痴態を晒している自分と、俺を見比べられているのだろう。
冷や汗が、やばい。
なんでもないふりをしたいのに冷静を装うことも出来ず、ぎこちなくジェシーを盗み見る。彼は未だに俺とスマホを交互に眺め、何か考えているようだった。気まずく、思わず目を逸らしながら溜まった唾を飲み込むと、ゴクリと喉が鳴った。
すると、ガタン、と机を挟んで目の前に座っていたジェシーが立ち上がり、こっちに歩いてくる。身体は固まって動けず、目の前まで来たジェシーを見上げると、じっと見てくる目にやっぱり誤魔化されてくれないよな、と絶望した。
「先輩、本当に違うんですか?」
そう問い掛けられ、必死で言い訳を考える。もしかしたらジェシーは優しいから見逃してくれるのではないか、と甘い考えがよぎった。けれど、その目からは感情が読み取れず、俺はぎこちなく目を逸らした。
「わ、かんない、つーか、俺、もう戻らないとやばいかも、」
嘘を吐き、慌てて席を立って脱いでいた制服を羽織る。視線に耐えられず、その目から逃げるように急いでジェシーの横を通り抜けようとしたけれど、腕を掴まれてしまった。
「なんだ、よ、離せよ、休憩時間、」
「いや、まだありますよね」
「ない!離せよ!」
いつもにこにこ明るいジェシーが真顔で俺の腕を掴んだまま離さず、怖くなって振り払おうと抗う。すると、強い力で胸を壁に押し付けられた。ドンッと大きい事がして、その衝撃で息が出来ずに咽てしまう。そんな俺に構わず、ジェシーは俺の服を突然捲りあげると、じっと肌を眺める。そして、首を傾げながら片手で持っていたスマホを見た。
「やっぱり同じですよね。先輩細いから分かりますよ」
そう言うと、スマホのライトが光り、カメラのシャッター音が鳴る。腹から胸にかけての写真を撮られた。その音に、体が震えた。
写真を撮って満足したのか俺を押さえつけていた腕が離れると、俺は服を押さえてその場に蹲った。
顔は撮られたくない、怖い。
自分の肩を抱いて震えていると、困っている声が落ちてきた。
「先輩、大丈夫ですよ。他の人には教えませんから」
優しく声を掛けられたかと思うと、温かくて大きな手でよしよしと頭を撫でられた。その優しい声に思わずちらりとジェシーの顔を見上げると、いつもと同じ柔らかな顔をして笑っている。俺はそれにホッとして顔を緩めると、ジェシーは手を差し出してくれる。俺がその手を取って立ち上がると、ジェシーが囁いた。
「仕事終わったらゆっくり話しましょうね」
何処か冷たいその声に、俺の身体は強ばった。
ジェシーに知られたのは、俺の所謂裏アカというやつだ。裸や際どいコスプレをしてはフォロワーから投げ銭や通販サイトの欲しいものリストから貢いで貰っている。お金を貰うからには配信中に指示され、自慰したり、開発をしたりしていて、勿論顔は見えないように、動画ではモザイクを入れたりマスクをしたり、配信の時は身体だけが映るように気を配っていた。あくまで声は変えたりはしなかったが、それでもバレたことはなかった。
顔を出していないし、誰かに強要されてもない。ただの承認欲求とお金や物が欲しかった。
きもいDMや返信は来るけれど、お金を貰える対価だと割り切っていたし、何より普段あまり自信がない俺の承認欲求を満たしてくれる裏アカの活動は楽しかった。それが、バレるまでは。
「先輩この前の配信やばかったですよね、あんなの入るんですね」
「や、めろ、」
「その前のワイシャツオナニー配信とか、凄く人来てましたし」
「やめろって、言うな!」
バイトが終わった後、わざと締め作業までして時間をずらして残っていたのに、ジェシーは案の定俺を待っていた。そして、更衣室で着替える俺の後ろでにこにこしながら話しかけてくる。
タイミングが悪過ぎた。社員さんは今日いない。田中なら大丈夫だろうと任せて貰えていることは嬉しい事ではあるけれど、まさかこんなことになるなんて思ってもいなかった。
手が震えて、悔しくて涙が出そうになる。
なんで休憩中もっと誤魔化せなかったのかと後悔しながら着替え終え、荷物を取って振り返った。後ろで待っていた彼と目が合えば、にっこり笑ってきた。その笑顔が、今の俺には胡散臭く見える。
綺麗でスタイルも良くて、何もしなくても女が寄ってきて貢いでくれそうなのに、何をしたいのか分からないから怖い。脅して金を取りたいのか、茶化したいのか何を考えているのだろうか。
涙目のまま睨んでいる俺の顔を見て、心配そうな顔をしたジェシーはゆっくりと立ち上がり、こっちに歩いてくる。
目の前まで来ると伸ばされたその手に優しく頬を撫でられた。その労わるような手に戸惑っていると、額にキスを落とされた。
「は?……っなんだよ、」
あまりにもその仕草がスマートで優しく、その眼差しの意図も分からない。
脅してんのはお前だろ、と理解が出来ずに思わず後退れば、ロッカーにすぐぶち当たる。そうやって出来た距離もすぐに、ジェシーに一歩進んで詰められてしまった。逃げ場が無くしてしまい、あ、また、墓穴を掘った、と気付いた。
「先輩どうしたんですか?」
自分から距離を詰めてきたくせに、どうしたじゃないだろ、と言い返してやりたい。けれど、そのひたすらに端正な顔が心配そうに至近距離で見詰めてくるから言葉が出ない。見下ろす顔が近くで目を細め、その顔がハッとするほど綺麗で、俺は見惚れてしまった。その一瞬の隙を見逃さなかったジェシーは、僅かな距離を埋め、唇を奪われた。
温かいそれが重なったことに驚いてその肩を押し返そうとするも、手首を掴まれ、身体を密着させられて、ロッカーに押し当てられて身動きが取れない。
俺を覆う大きな身体に支配されたようで、意志とは反して身体がぞくぞくした。
お金の為に開発したり、色々してきたりしたけれど、生身の相手とそういうことは一切しなかった。ゲイじゃないし、バイでもない。なのに、自分より大きな身体にねじ伏せられ、ぞくぞくしているなんて信じたくなかった。
舌が口の中を這い、舌を絡め取られ弄ばれて、角度を変えてまた歯列をなぞられてまた舌を絡ませられる。いつも女の子が相手の時は主導権を握っているはずの俺が、完全に主導権を奪われ、更にキスが上手いせいで、頭がぼーっとしてくる。まずい、これはまずい、でもキスが気持ち良くて考えられない。止めたくない。
そうやって混乱しているうちに、回った手にするりと腰を撫でられて身体が跳ねた。びっくりして身体に力を入れて身を捩ると、舌を吸われてすぐに力が抜ける。キスについていくのに必死で、口の端から唾液が伝っていく。
おれ、このままヤラれんの……?
くらくらする頭の中、いやらしく手が身体を這うと、勝手に身体が跳ねた。
「ぁ……っ♡」
キスをしていた唇の隙間で思わず熱い声が出てしまい、驚いた。慌てて受け入れていた唇から逃げ、横に顔を逸らす。真っ赤になっているであろう俺の頬に、ジェシーはキスをした。
「人、来たら困りますもんね。どうしますか?ホテル行きます?」
耳元で囁かれ、身体がぞくぞくと震えてしまう。その反応に、自分でも驚いた。
俺、どうかしてる。キスで溶かされてしまったのかも、しれない。
ぼんやりしている頭のままジェシーと目が合う。そうだ、バラされたら困るからそれ以上の意味はない、そう自分に言い聞かせて、俺は仕方なく、と言いたげに頷いてみせた。
バイト先を出たあと俺のぽやぽやした頭が覚めないようにか、ジェシーはすぐにタクシーを止めた。手を引かれたまま車に乗り込み、タクシーの運転手に割りと近場のホテルの名前を恥ずかしげもなく伝えているのを横で見ていた。堂々と手を絡められて、タクシーの運転手に変に思われると思いながらも、その繋がれた手に、男でさえ胸がきゅんとしてしまう。こんなことされて惚れない女は居ないはずだ。なのにどうしてジェシーがこんな事するのか、分からない。こんな、脅すようなことをわざわざしなくてもいいだろう。それでも目が合うと優しく笑ってくるのだから訳が分からない。
絡められた指を親指で撫でてられ、タクシーの車窓を眺めながらもう逃げられないな、と覚悟をした。
タクシーが目的地に着き、ジェシーがスマホで支払いをした後、指を繋いだままタクシーを降りる。その一連の動きにもたつきはなく、同じ男としてちょっと勉強になるな、なんて見当違いなことを考えながらそのまま手を引かれてホテルに入った。
俺は今から、ジェシーに抱かれる。
ホールに入って部屋の画面の前に着くと絡められた指を引っ張られ、軽く抱き締められる。誰かいるかもしれないのに、と慌てている俺を余所に、腰に腕を回したジェシーがパネルを指さした。
「部屋、何処が良いですか?」
「……どこでもいい、任せる」
「なら、適当にしときますね」
そう言いながら躊躇なく指でボタンを押すと、ジェシーは大事そうに額にキスをしてきた。俺はこの状況にまだ順応出来ておらず、ただひたすらに混乱したままだった。ジェシーは流れるようにカギを受け取り、俺は腰を抱かれたままエレベーターに連れていかれた。
エレベーターに乗ると、またキスをしようとしてきた。恋人同士でするような甘ったるいそれに、すぐに着くからと待てをかける。すると、意外にもジェシーは大人しく引き下がった。そして、エレベーターが階に着くと、また手を引かれて部屋まで誘導された。
ここまで来たらもう逃げないと言いたかったけれど、優しいジェシーに面食らい、なんとなく言えなかった。
部屋に入るとドアを閉めてすぐに、また抱き締められた。そして、蕩けるようなキスをされる。
その甘いキスに翻弄されながらジェシーの服をぎゅっと掴むと、勢いよく肩を押して少し身体を離させた。
「先輩?」
「……なんで?こんなこと、俺のこと今から抱くの?」
困惑したままの俺と同じように、ジェシーは困った顔をした。俺は、その顔にさらに困惑した。
「駄目ですか?」
思ってもなかった返事に俺は、「え、」や、「は?」としか言葉が出なかった。
この期に及んでダメですかって、なに。
俺に選択権があるとは思えず、呆然として何も言えずにジェシーの顔を見ていると、頬を両手で包まれてまた唇が重なる。
だめだ、また何も考えられなくなる。
唇が深く重なれば重なるほど口内を侵され、唾液を送り込まれて舌を絡ませられ、翻弄されている間に腰を抱かれて身体を密着させられる。服の上からでもジェシーの太くなったものが押し付けられて、身体が一気に熱くなった。
俺、ノンケのはずだよな?そう思っている間に腰をまた撫でられたと思えば、そのまま服の隙間から手を差し込まれる。
冷たい手が肌を這って動くとびく、と身体が震えた。
「ジェ、シー、待って、」
キスの合間にどうにか言葉を発すると、それに気付いたジェシーがちゅ、というリップ音を立てて唇を離した。
「なんですか……?」
欲情した顔で、ジェシーが艶っぽい声で聞いてくると、もうどうでも良くなりそうになる。
「シャワー、で、綺麗にさせろ、すぐにはむり……っ」
そう伝えると、俺が折れたことにやっと気付いたのか、満足そうにジェシーが笑った。
一人で入りたかったのに、服を脱がされ、何度もキスをしながら風呂場に縺れ込む。
多分、俺を一人にすると逃げてしまうかもしれないと思っているのだろう。そう思うと、必死過ぎて可愛いと思ってしまうから、感覚が狂ってきているのかもしれない。
身体を洗った後でもくっついて纏わりついてくるから、中を綺麗にするからといって風呂から追い出した。風呂場に一人になって、やっと居なくなった相手にホッとして溜息を吐く。
あくまで俺は身体を強要されているだけなのに、ジェシーが甘い雰囲気を出すから俺はどうしていいのか分からない。
ジェシーは明るくて優しくて、誰からも好かれている。モテるだろうし、きっと選びたい放題のジェシーがわざわざなんで俺を選ぶのか理解できなかった。
とにかく、今は綺麗にしようと思ってシャワーヘッドを取り、入れる予定のそこを指で少し慣らしてから拡げる。ホースだけになったそれを入れ、中を洗浄すると、水圧に反応して思わず壁に手を付いた。
裏アカウントのため、金のために何回もしたことがある下準備には、かなり慣れてきた。そのせいか、その行為自体にも段々と身体が熱くなってくる。これから入れるということを身体が分かっているからだ。そうやって十分に洗浄して慣らした後、潔く風呂から出た。
体を拭いてバスローブを羽織ると、ソファーに座って待っていたジェシーと視線が合う。ジェシーもバスローブを着ているけれど、似合いすぎている。とはいえ、少しだけ丈が短いのは足が長いせいだろう。立ち上がり、ゆっくり近づいてきたジェシーの手が髪に差し込まれる。
あ、このパターン。また、キスされて蕩けさせられてしまう。
けれど、その前に聞きたいことがあって顔が近づいてくるのを慌てて止めた。
「ジェシー、待って、俺ききたいことがある」
「なんですか?」
「なんですか、ってこの状況だよ」
「俺が先輩を抱くことですか?」
「っ、そうだし、なんでこんなことになってるのか、わかんねぇ、」
そう言うとジェシーは考えるように眉を寄せて黙ってしまった。そんなジェシーを見て、そんなに考えることなのかと黙って待っていると、目が合って微笑まれた。
「先輩ノンケですよね、元々は」
「あ?うん、まぁ」
「投げ銭とか目当てでSNSしてるんですよね?」
「、うん、そだな」
「今お付き合いしてる方とか、SNSで会ったりした人はいないですか?」
「いないよ。いたらしてないし、知らないやつと会うとか怖いじゃん」
「……良かった、安心しました」
「……なんで?」
突然の質問攻めに、何でこんなことを聞かれるんだろうかと眉を寄せたまま答えると、ジェシーは可笑しそうに笑い始めた。
「な、なんだよ、」
「いや、先輩って鈍感ですね」
「は?」
「俺がこうやってる意味わからないですか?」
「は?わかんね、身体目的だろ?」
ジェシーの意図が分からず、困惑したままそういうと、ジェシーは笑うのを止めて、少し悲しそうな顔をした。その瞳が、何故か揺れているような気がする。この状況で泣きたいのはどっちかというと俺じゃない?
「ジェシー?」
「俺、先輩のこと好きなんですよ」
「は?え?」
「だから、身体だけでも俺のものにしようって思ってて」
突然の告白で頭が追いつかず、「え?」を壊れた機械みたいに何度もつぶやいていると、近付いてきたジェシーに身体を抱き上げられて、そのままベッドに押し倒された。
「ちょっ、ジェシー、」
「良いから黙って抱かれて下さい」
見下ろしてくる綺麗な顔が、少し低い声でそう告げた。そんな顔で言われたら、動けなくなる。その目で見詰められて嫌だっていうやつ、いんの?
ジェシーの顔を見上げ、見惚れて黙っていると、顔が近付いてくる。吐息が触れる距離で微笑まれ、そして唇が重なった。
あ、また、蕩けさせられる。
そう思っているうちに唇の隙間から舌が入ってきて、俺の舌を捕らえた。
何度も角度を変えてキスをされている間に折角結んだバスローブを器用に外され、捲られる。ジェシーの手が素肌を撫で、這い始める。
「ん、……」
ぴく、と身体が震える。馬鹿なこと言うけれど、期待してしまっている。
今までフォロワーさんに指示されて開発して来たけれど、それは見えない人だから出来ていただけで、変なリプとかDMとかは気持ち悪かった。
でも、ジェシーは男から見てもかっこいいし、性格も良い。一目置かれている存在が、俺の事を好きだと、抱きたいと思っていることに優越感を感じちゃってる自分がいる。
「先輩、じゅりって呼んでいいですか?」
唇を噛まれたり吸われたりしながらそう言われて、もう蕩けて抵抗する気がない俺は、ぼんやりしたまま頷いた。ジェシーは嬉しそうに顔を緩ませている。
手が素肌を撫でる度に気持ち良く、心地よい温度に安心してしまう。頬にキスをされながら滑っていた手が胸まで上がると、その指が乳首を引っ搔いて、びく、と身体が跳ねた。爪で執拗に先端を弄られ、摘まれて、気持ちよくて身体が仰け反ってしまう。
「ん♡あ、きもちぃ……」
思わず呟いてしまった言葉に、ジェシーが反応して熱い息を漏らすと、頬や顎や首にキスをだんだんと降ろしていく。徐々に降りていったキスから、愛しさが伝わってくる。俺のこと本当に好きなんだって、分かってしまうキスだった。
鎖骨にキスされ、そのまま下りていくと、弄られていた乳首を口に含まれた。
生暖かい口内に吐息が漏れる。ぐるりと舐められた後、歯を立てられてびく、と身体が震えた。甘い快感に身を委ね、噛まれたり舐められたり、片方も指で弄られるて快感で身を捩ってしまう。でも、もっと気持ちいいことを知っているから、それが欲しくて、足りなくて腰が揺れてしまう。
ジェシーはそれに気付くとそのままキスを下げ、腹にキスして、臍にキスして、先走りで濡れ、緩く立ち上がった俺のそれを口に含んだ。
「ひっ♡ちょ、じぇしっ♡」
うそうそうそ、あの綺麗な顔をしたジェシーが、俺のを咥えている。その事実に羞恥で身体中の熱が上がって、慌てて止めようとしたけれど、吸われてしまうと気持ち良くて止めて欲しくない。
「んや、……っだめ、じぇし、♡♡」
まだほんの少し触られただけなのに、足がガクガクと震えてしまう。ジェシーにされている、という事実だけでこんなになるなんて、自分を見失ってしまいそうだった。
俺の気持ちいいところを知っているかのように舌が器用に動き回って、這って、刺激して、亀頭を吸われる。唇が離れて亀頭を握られて激しく擦られると、もう限界だった。
「イ、く、だめ、イ♡♡」
「いいよ。イって」
「う♡イ、~~っ♡♡」
擦られる快感に耐えられず、頭が真っ白になった瞬間、ビュクッとジェシーの手の中に出してしまった。
イッた余韻に浸りながら荒く何度も息をしている間にジェシーは身体を起こし、俺の身体に覆いかぶさった。虚ろな目で見上げると、額にキスをし、柔らかく囁やかれた。
「じゅり、可愛いね。好きだよ」
「ん、じぇし、」
甘い言葉に頭がぼうっとする。思わず縋るように首に腕を絡ませて抱き着くと、ジェシーの手が身体を這って行き、そのまま太腿まで撫でていくと、ゆっくり足を広げられた。その瞬間、ゾクゾクした。俺が言い得ぬ感情に困惑している間、ジェシーはベッドボードに手を伸ばし、いつの間に置いたのかアナル用のローションを手に取った。
蓋を取り中のローションを手際よく掌に出し、人肌にあっためられてちゅくちゅく鳴っている。その水音のせいで興奮してしまう。これからすることを想像させて顔を覆いたくなった。負けた気がして、手の中のローションからは目を逸らした。暫くして、その手はゆっくりと下りていき俺の入り口をなぞった。
「あ、ちょっと、待って、」
「どうしたのじゅり、こわい?」
触れられて慌てて俺が止めると、ジェシーは心配そうな顔で俺を見下す。その間も、手は頑なにそこに這ったままだ。
「ちがくて、おれ、舐めなくて、いいの?」
流れ的にはそうするべきじゃないのかと思い、伝えると、驚いた顔をしてすぐにいつものように屈託なく大きく笑っている。
俺が変なこと言ったのかもしれない。そう思った時には、愛し気にキスが落ちてきた。
くすくす笑っているジェシーが、下半身に視線を移す。それに釣られて俺も見下ろすと、ジェシーの完勃起したそれが視界に入って絶句した。触ってもいないのに準備万端で、あまりにも大きいそれに言葉を失ってしまう。
「……っ」
「ありがとう、見たら分かると思うけど、大丈夫」
その言葉に、身体が震えた。でかすぎる。どうしよう。そう思っていると、添えられていただけの指がゆっくり入ってきた。
自分より太い指が中の内壁を押し広げ、びくっと身体が仰け反る。当たり前だけれど、自分の指とは違う太さと動きに、普段触らせることのないそこが他人を受け入れたという事実を思い知らされて、勝手に泣きそうになってしまった。
「ぁ……っ♡」
それなのに、指が中でゆっくり動くと、すぐに快感が呼び戻されてしまう。感情よりも快楽が勝ってしまうなんて、あるはずがない。
「凄いね。熱いよじゅりの中」
ジェシーに触れられながら囁かれる言葉が恥ずかしくて死にそうになる。そんな俺とは正反対に嬉しそうに笑うジェシーを見ると、感情が迷子になる。全て委ねたくなってしまう。ぐちゃぐちゃになってジェシーに縋り付くように抱き着くと、ジェシーの指が前立腺を擦ってきた。油断していたせいで、ビクビクと身体が跳ねた。
「んん、じぇ、し……っ♡♡」
「可愛いね、じゅり、好きだよ」
そう言って蕩けさせられ、快感を与えられて、被支配欲が刺激される。
女の子ってこんな気分になんの?それとも、相手がジェシーだから?回らない頭で考えているけれど、分からない。
慣らすようにゆっくり動いた後で指が増やされて、息を吐きながらその圧迫感を受け入れる。甘い吐息が時々混じって俺が鳴けば、ジェシーは我慢しているのか眉を寄せた。その表情を見て、切なくなった。
「じぇし、もう、いぃ……よ」
中で何度か指が動いて、圧迫感が薄れたところで伝えると、ジェシーが顔を上げた。
もう覚悟は出来ている。
俺の表情を見てジェシーにも伝わったのか、頷いてもう一度キスをくれる。
今日、ジェシーに俺のアカウントを見せられた時は怖くてたまらなかったのに、今はジェシーの気持ちも見えて、優しいし、愛しさも伝わってきている。
だから、大丈夫なはずだ。
ローションで濡らされた指が引き抜かれると、その感覚に身体がビクンと震える。ジェシーの手が足を撫でて、思わずごくりと唾を飲んだ。
「ね、じゅり、」
「……なに?」
「今日、生でいい?」
甘い声がそう囁く。色々なリスクが全く無い訳では無いけれど、別に妊娠するわけではない。けれど、確認されたことでジェシーに女の子にされてしまうような気がして、何故か身体の奥が疼いた。
「……ちゃんと、処理してくれんの、かよ」
「するから、初めてはちゃんと俺を感じて欲しい。いい?」
「ん、わかった、いいよ、」
「ありがとう」
気恥ずかしくて何度も頷いて返すとジェシーは笑ったけれど、その笑顔もどこか少し切羽詰まっている。そして、足を軽く抱えられ、ジェシーの勃起したものが俺の入口に当たると、何度もそこに擦られた。
本当に入るのか?そう思っていると、力が加えられてじわじわ押し広げられていく。ゆっくり入ってくる圧迫感に、腰が浮いてしまい背中が反ってしまう。そうやって無意識に逃げようとしてしまう身体を抱きしめられて、腰を進められた。
「ぅあぁ……っ」
ゆっくりゆっくりと、ジェシーのそれを覚えさせるかのように入ってきて身体が震える。なんとも言えない圧迫感に必死で耐えていると、漸く肌が密着して、全てが埋まった。けれど、その大きさに、息ができない。力を入れるだけで太いそれが気持ち良くて許容範囲を超えていた。
「あ、むり、むり、」
「むりじゃ、ないよ、入ってるでしょ?」
「むり、ふとい、おっきい、もん」
生理的な涙が自然と出てしまい、圧迫感を訴えると、ジェシーが固まった。そして、また中で膨張したような感覚がして、ひっと喉がなる。
ジェシーが困ったように「あんまり煽らないでよ、」と眉を寄せながら零したけれど、その言葉の意味がわからない。そして片手を掴まれると、指先にキスされてからその手を下に導かれてしまう。
「ほら、ちゃんと入ってるよ」
そう言って結合部を触れさせられる。濡れているそこは、ギチギチにジェシーのものを飲み込んでいる。死にそうなくらい恥ずかしくて、手を振り払い、はだけているジェシーのバスローブにしがみついて「ばか」や「あほ」と悪態を吐いた。
ジェシーは俺のリアクションに満足そうに笑えば、キスを落としながらゆっくりと腰を引いた。その瞬間、動くんだと察して顔をあげる。目が合うと、また優しくキスをされた。
ジェシーのキスは凄く甘くて、蕩けさせてくれるから好きだ。ぼんやりそう思っていると、ゆっくり腰が動き始めて頭の中がびりびりする。
「ぁあ♡♡待って、じぇし、……ん、ゆっくり、ぃ♡」
「じゅりの中、すごい、きついね」
「ぅぅう、っやぱ、ふと、ぃ……♡」
玩具で普段慣らしているのに、生になると全然違う。熱いものが中を擦ってきて、腰が揺れる度に自分の腰も自然と揺れてしまう。そうやって無意識にジェシーを煽ってしまったのか、段々とジェシーの腰が早くなる。
「ん、ん、すごい、……んっ♡きもちぃっ♡」
「本当に初めて、なの?すごい吸い付く、やらしい、」
「うそ……っ、はずかし、ぃ、んん♡♡」
「こっちも、触ってあげるね」
そう言うと先程イッたはずなのにとろとろになっている俺自身をジェシーの掌が包んだ。ぬるぬるになっている自身を擦られて、またびくんと身体が跳ねる。そのせいで力が入って中のジェシーをぎゅっと締め付けてしまい、ジェシーが耐えるように眉を寄せた。
「ごめ♡ごめん♡じぇし、きもちぃ♡♡」
頭がバカになりそうなくらい動かれると気持ち良くて、前立腺を突かれる度に快感で目の裏がちかちかしてきた。それが予兆だと気付き、またイっちゃうのだと察した。
少し乱暴に腰の動きに合わせて自身を扱かれると、前も後ろも気持ち良くて我慢できなかった。
「あ、じぇしぃ……っ、イク、でる♡♡」
バスローブに縋り付いてキスして欲しくて涙目でその目を見つめると、応えるように唇が重なった。
その瞬間、足を痙攣させながらびゅくびゅくジェシーの手の中でイッてしまった。そのせいで中を締め付けてしまい、ジェシーの熱い息が辛そうに唇の隙間で漏れている。ジェシーも限界なのだ。入る前からガチガチに勃起していたのを見ているから、同じ男として理解できた。
「じぇし、いきそ?いって、いーよ……♡」
ぜーぜーと息を吐きながら、ジェシーの耳元で囁く。ぽわぽわした頭のままで唇にキスをすると、ジェシーは嬉しそうに微笑んで、その顔が凄く可愛くて嬉しくなった。
「じゅり、出してい?」
「ん、だして、いーよ♡なか……」
お腹を撫でながら微笑み、キスをするとその瞬間、止まっていた腰が激しく動き始めた。突然再開された快感に、「ぐ♡」と声が漏れ、慌ててしがみつく。けれど、構わず腰を打ち付けられ、身体がその度に大きく跳ねた。
「おく、っだめ、じぇし、……っ♡♡」
がつがつ奥を突かれて身体の震えが止まらない。優しかった先ほどまでの行為とは違う激しさに、快楽の許容を超えてしまいそうだ。
頭の中がチカチカする。これ、だめ、やばい。
「だめっ~~~~だめだめ、……っ!イくっ♡♡イっ♡♡」
「イク、じゅり出すよ、っ」
ごりっと奥を突かれ、脳内で電気が走ったみたいにチカチカした。また、イッてしまった。足はびくびくと痙攣して止まらなくて、快感に身体の震えが治まらない。中ではドロっとしたものが流れ込んでくる初めての感覚がして、中に出されたのだと分かった。
最後、中イキしてしまったかもしれない。これまで自分でしている時はこんなことはなく、初めての感覚だった。
息を大きく吐きぼーっとしている俺に、荒く息をしていたジェシーが頬を優しく撫でて、そしてキスをしてくれた。
そのキスが甘くて、俺もそのキスに応えると、ジェシーの口角が上がった。そして、逃げられなくなるような瞳で見つめられて、囁かれた。
「これでじゅりは俺のものだよね?」
「ん、うん、いい」
気持ち良すぎた。多分相性が良かったのだと思う。こんな快感を知ってしまったら、もう離れられないかもしれない。
最初は脅されていたような気もするけれど、それも吹っ飛ぶくらいに気持ちよかったし、ジェシーが可愛くて段々と愛しくなっていた。
「じゃあ、アカウント、消すよね?」
「え、」
「引退セックス配信、しようね」
容認してくれるとは思ってなかったけれど、まさかの言葉に唖然とする。慌てて身体を起こすけれど、そう言ったジェシーの顔は休憩中に見た冷たい目だった。口元だけ笑って有無を言わさない圧力みたいなものを感じて、言葉を呑み込んだ。その表情に、俺はゾクゾクしていた。
俺もねじ曲がってしまったらしい。
ごくりと唾を飲んで、俺は思った。
生配信セックスすんの……?
最高、すぎ。
そんなふうに思う程、俺は快楽に支配されてしまった。
ジェシーに与えられる、快感に。

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